eGFRと腎機能

egfr

eGFRは腎機能の指標

血液検査の結果で、eGFRという項目を見たことはありますか?

eGFRは腎機能をあらわす指標です。estimated Glomerular Filtration Rateの略で、日本語では推算糸球体濾過量です。

年齢、性別、血清クレアチニン値(または血清シスタチンC値)を用いて計算します。

腎臓では糸球体(しきゅうたい)と呼ばれるところで、血液を濾過(ろか)して尿を作っています。糸球体で濾過される量が糸球体濾過量(GFR)で腎臓の働き具合を示す数字です。腎臓の働き(腎機能)が悪くなると、糸球体濾過量(GFR)は低くなります。

糸球体濾過量(GFR)を正確に測るには、イヌリンという物質を点滴し、点滴する前後で決まった時間に飲水、採血、検尿する方法があります。大変手間がかかる方法で通常の診療では行われません。次に正確な方法は、24時間尿を溜める方法です。24時間すべての尿を貯めないと正確に測ることができません。入院中であれば比較的簡単に行うことができますが、外来では24時間すべての尿を溜めるのは大変かもしれません。

より簡便に、1回の採血で糸球体濾過量を推算する方法が推算糸球体濾過量、eGFRです。

血清クレアチニンによるeGFR

eGFRは、年齢、性別、血清クレアチニン値(または血清シスタチンC値)を用いて計算します。血清クレアチニンや血清シスタチンCは腎機能が悪くなると体にたまり高くなります。eGFRは腎機能が悪くなると低くなります。

血清クレアチニンは糖尿病高血圧脂質異常症(高脂血症)、腎臓病などの病気で通院中の場合や健康診断などでよく検査する項目です。

血清クレアチニン(Cr)を用いたはeGFR(eGFRcreat)は、下記の計算式で求めることができます(18歳以上の人が対象)。

男性 eGFRcreat(mL/分/1.73㎡) = 194×Cr-1.094  × 年齢-0.287

女性 eGFRcreat(mL/分/1.73㎡) = 194×Cr-1.094  × 年齢-0.287 × 0.739

暗算で計算できるような値ではないので、計算された値が、血液検査の用紙に記載されていると思います。

腎機能が低下しても、血清クレアチニンが正常範囲内にとどまっていることがよくあります。このような時は、eGFRを計算すると腎機能が下がっていることが判明します。

eGFRが60を下回ると、腎機能は低下していると考えます。

eGFRcreatが不正確になるケース

eGFRは糸球体濾過量(GFR)を推算する値であり、糸球体濾過量そのものではありません。

75%の人が、実測GFR±30%の範囲に入る程度の正確度です。

血清クレアチニンは筋肉量に影響を受けます。

筋肉の病気や、寝たきりなどで筋肉量が少なくなった場合は、血清クレアチニンは低い値になります。血清クレアチニンが低いと、計算上、eGFRが高くなってしまいます。筋肉量が少ないと、実際は腎機能が悪くなっているのに、eGFRが良い値(高い値)になります。

運動をよくされている方で筋肉量が多い場合は、血清クレアチニンが高い値になります。血清クレアチニンが高いと、計算上、eGFRが低くなります。筋肉量が多いと実際は腎機能が悪くないのに、eGFRが低くなることがあります。

お肉を食べたあとや、一部の薬剤の影響で血清クレアチニンが高くなることがあり、それによりeGFRが低くなります。

血清クレアチニンを用いたeGFRは、簡便に腎機能を推定できます。しかし、食事や運動、筋肉量など腎機能以外の要因でも、上下するため注意が必要です。

血清シスタチンCによるeGFR

eGFRは血清シスタチンC(Cys-C)という採血項目でも推算できます。血清クレアチニンはよく検査する項目ですが、血清シスタチンCは健康診断や通常の血液検査では調べないことが多いです。

血清シスタチンCを用いたeGFRcysは下記の計算式で求めることができます(18歳以上の人が対象)。

男性 eGFRcys(mL/分/1.73㎡) = (104×Cys-C-1.019  × 0.996年齢(歳))- 8

女性 eGFRcys(mL/分/1.73㎡) = (104×Cys-C-1.019  × 0.996年齢(歳) × 0.929)- 8

eGFRcysの正確度は、eGFRcreatと同程度です。

eGFRcreatは、食事や運動、筋肉量の影響を受けますが、eGFRcysは食事や運動、筋肉量の影響をあまり受けません。eGFRcysは、食事や運動、筋肉量の影響でeGFRcreatで腎機能が評価しにくい場合に有効な方法です。

しかし、血清シスタチンC値は妊娠、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症の影響を受けます。また薬剤による影響はよくわかっていません。

腎機能がかなり落ちてきた状態では、血清シスタチンC値を用いたeGFRcysは腎機能の評価に向いていません。

血清クレアチニンを用いたeGFRcreatと血清シスタチンC値を用いたeGFRcysにはそれぞれメリット、デメリットがあります。eGFRcreatとeGFRcysの平均値を求めると、より正確なeGFRが推算できます。

eGFRと慢性腎臓病

尿蛋白などの尿異常、画像診断、血液検査で腎障害が明らかな場合や、GFR60未満が3ヶ月以上続くと、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)と診断されます。

慢性腎臓病(CKD)
  1. 蛋白尿などの尿異常、画像検査、血液検査などで腎障害が明らか
  2. GFRが60未満

1,2のいずれか、または両方が3ヶ月以上持続する場合、慢性腎臓病と診断します。

慢性腎臓病にはいろいろな病気が含まれます。糖尿病性腎症、高血圧に合併する腎機能低下、慢性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎などさまざまな病気が原因で腎機能が低下し、慢性腎臓病と診断されます。

同じGFRでも尿蛋白の量が多いと、慢性腎臓病はより重症と考えます。下記表で、緑、黄色、オレンジ、赤の順に慢性腎臓病が重症となります。eGFRが低く、慢性腎臓病が疑われる場合は、尿蛋白(糖尿病の場合は、尿アルブミン)の検査が必要です。

慢性腎臓病は、腎機能が低下した原因、GFRの状態、蛋白尿の状態を考慮して、治療法を決めます。例えば糖尿病性腎症であれば、血糖コントロールや血圧のコントロールが治療の中心になります。血圧に関しては、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)という降圧薬で治療するのが効果的です。

原疾患 蛋白尿区分 A1 A2 A3
糖尿病 尿アルブミン定量(mg/日)
尿アルブミン/Cr比(mg/gCr)
正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿
30未満 30~299 300以上
高血圧、腎炎
多発性嚢胞腎
移植腎、不明、その他
尿蛋白定量(g/日)
尿蛋白/Cr比(g/gCr)
正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿
0.15未満 0.15~0.49 0.50以上
GFR区分
(mL/分/1.73m2
G1 正常または高値 ≧90
G2 正常または軽度低下 60~89
G3a 軽度~中等度低下 45~59
G3b 中等度~高度低下 30~44
G4 高度低下 15~29
G5 末期腎不全(ESKD) <15